相続税申告のポイント㉜~その他の財産・債務控除

 今回は、今まで取り上げてきた不動産や非上場株式等以外の財産や債務の計上における注意点等について解説します。

 

上場株式については、単元未満株式(一売買単位に満たない株式)の申告もれが多いので注意が必要です。証券会社等の口座に入庫していない単元未満株式は、残高証明書を見ても載っていません。 

単元未満株式の有無については「配当金計算書、支払通知書」や株主総会招集通知に同封されている「議決権行使書」に記載されている所有株式数により確認するのが簡単です(ただし課税時期直前に売買等をしている銘柄については、株数の移動に注意してください。)それらにより確認ができない場合には証券代行会社(信託銀行証券代行部等)に所有株式数を照会します。

 

死亡時点の現金残高を実際に確認しているケースは多くないと思われます。そのような場合でも、相続財産確認時の所持金額、死亡直前の預貯金からの現金出金額と生活費などの費消額との比較、死亡後の葬式費用等の支払額に見合う現金出金の有無、などの状況について検討し、課税時期において現金の所有が想定される場合には、合理的に算定した金額を手元現金として計上するべきであると考えます。

 

死亡保険金とともに、被相続人の生前の入院、手術や特定の病気の診断に対し、入院給付金・手術給付金・がん診断給付金などが支払われる場合があります。 

これらの給付金は、死亡を保険事故として支払われる保険金ではありませんので、みなし相続財産(相続税法3条1項1号)ではなく本来の相続財産として課税対象となります。したがってこれらの給付金には、生命保険金等の非課税規定500万円×法定相続人の数、相続税法12条1項5号)の適用はありませんから注意してください。

 

被相続人が保険料を負担していた生命保険契約で、相続開始の時においてまだ保険事故が発生していないものについては、その「生命保険契約に関する権利」が課税対象になりますが、その時点で保険金が支払われるわけではないため見落としがちです。 

家族が加入しているすべての保険について、保険料負担者が誰であったか確認するとともに、被相続人の預貯金通帳から引き落とされていた保険料がどの保険に対応するものかを確認する必要があると考えます。

 

農協の建物更生共済契約(通称建更(たてこう)の権利は、被相続人が共済契約者である場合に、解約返戻金相当額が本来の相続財産として課税対象になります。 

なお、被相続人が保険料(掛金)を負担していたとしても被相続人以外の者が契約者である場合には、相続税の課税対象となる財産はないと考えます。(建更には、生命保険契約に関する権利のように相続財産とみなす税法の規定がないためです。)

 

被相続人が土地(山林)を所有していた場合には、必ず立木計上の必要性についても検討してください。なお、相続人が取得した立木については15%の評価減の適用がありますので注意してください。(相続税法26条)

債務控除

 被相続人の有していた住宅ローンについては、団体信用生命保険(通称団信)の加入がなかったかどうか必ず確認するようにしてください。団体信用生命保険に加入していた場合には、相続人はローンの支払いを免除されますから、その住宅ローンについて債務控除はできません。(特に住宅ローンを組んだ時の年齢が70歳以下の場合には、団信加入の可能性が高いと思われるので注意が必要です。) 

なお(相続税の話ではありませんが)、その住宅ローンが連帯債務だった場合には、死亡した者以外の債務者のローンが免除される部分について、一時所得として所得税の課税対象となる場合がありますので注意してください。

 

債務控除の対象となるのは、金融機関や会社などからの借入金のほか、未払いの医療費や介護費用、水道光熱費や通信費、クレジットカードの未払分や未納公租公課(納期限未到来のものを含む)も該当します。 

債務の計上もれが生じないよう、相続人へのヒアリングを確実に行うとともに、相続開始前後の預貯金通帳の引落しの内容を確認することも重要です。 

次回に続く